ホームレスが救急搬送を拒否される現実とは?
寒さが厳しい冬の夜、岐阜県土岐市で体調を崩した50代のホームレスの男性が震えながら路上にうずくまっていた。
近くを通る人にかすれた声で助けを求めたが、多くは足早に通り過ぎた。
やっとの思いで119番通報されたものの、救急車は出動しなかった。
その翌日、彼は死亡していた――。これは実際に起こったケースだ。
なぜ、救急車は出動しなかったのか? そして、病院がホームレスの人を受け入れない理由とは何なのか?
この問題は決して一部の地域だけに起こっているものではない。
全国各地でホームレスの方々が適切な医療を受けられず、命を落としている事例が報告されている。医療機関の負担、行政の対応、そして社会の意識――
さまざまな要因が絡み合い、この問題はますます深刻化している。
ホームレスの人が病院の治療を受ける際には、多くの問題が絡み合っている。「医療費を誰が払うのか?」「病院は本当に助けられないのか?」「社会としてどのような対応をすべきなのか?」。この問題は単なる個人の問題ではなく、社会全体の課題でもある。
本記事では、ホームレスと医療の現状、病院が受け入れを拒否する理由、そして解決策について深掘りしていく。
なぜ病院はホームレスの受け入れを拒否するのか?
- 医療費の未払いリスク
- ある病院関係者は、「ホームレスの患者さんが診療後に『お金がない』と言うケースは多い。病院としては慈善事業ではなく、運営費の確保も重要なので、未払いリスクを考えると受け入れをためらうこともある」と語る。
- 受け入れ体制の問題(設備・人手不足)
- 大都市の総合病院では「救急患者の受け入れ数が多すぎる」ことも問題だ。ある看護師は、「救急の受け入れがパンクしている状態で、緊急手術が必要な患者を優先しなければならない。そのため、長期的なケアが必要なホームレスの方は後回しになることもある」と話す。
- 長期入院による病院の負担
- 退院後の行き場がないホームレスの患者は、病院に長期間滞在せざるを得ないことがある。ある病院では、行き場のない患者が数ヶ月間入院し続け、他の患者の受け入れに影響が出たため、最終的に施設を手配して退院を促したという。
ホームレスの医療費は誰が払うのか?
ホームレスの人々を支援するNPO法人の存在も重要である。
- 本人負担できるケースとできないケース
- ほとんどのホームレスは経済的に厳しく、治療費の自己負担が難しい。
- 働いて収入がある場合は、部分的に支払うこともある。
- 生活保護を受けていない場合の対応
- 生活保護を受けていれば医療費が免除されるが、多くのホームレスは申請していない。
- 行政の支援を受けられず、医療を受けられないケースが多発。
- NPOや自治体の支援の実態
- 一部のNPOやボランティア団体が無料診療を提供。
- しかし、全国的に見れば支援が行き届いているとは言い難い。例えば、2023年の厚生労働省の調査によると、全国のホームレス人口は約3,000人と推計されているが、彼らが利用できる無料・低額診療所の数は限られており、大都市圏に偏在している。また、NPOの支援を受けられる割合は地域によって異なり、地方ではほとんど支援を受けられないケースも報告されている。
数は少ないが、ホームレスの人を支援しているNPO団体はいくつかあり、住居提供や医療サポート、就労支援など、さまざまなサポートを提供している。
認定NPO法人Homedoorは大阪市を拠点に、住居支援や就労支援、無料診療を提供している。
また、NPO法人抱樸(ほうぼく)は北九州市でホームレスの方々の医療や生活再建を支援し、成功事例も多い。
札幌市のNPO法人osForwardも、生活保護申請のサポートや住居支援を行い、生活の安定を目指す取り組みを続けている。具体的には、相談窓口を設置し、住居確保が難しい人々へのシェルター提供や、役所との調整支援を行っている。
「救急たらい回し」の現実と社会の反応
- 何度も病院に拒否されるケース
- ホームレスの人が救急搬送されても、受け入れ先が見つからずたらい回しに。
- 受け入れ先が見つからず、死亡するケースも。
- 一般の人々の意見(賛否両論)
- 「医療は平等に受けるべき」という意見と、「病院の負担が大きすぎる」という意見が対立している。例えば、ある地域では救急搬送されたホームレスの患者が10以上の病院に拒否され、最終的に手遅れになったという報告がある。一方で、病院側からは「限られた医療リソースを公平に配分する必要があり、ホームレスの長期入院は医療現場に大きな負担をかける」という声も上がっている。こうした意見の衝突は、単なる善悪の問題ではなく、現実的な資源の分配と人道的支援のバランスをどこで取るかという社会全体の課題となっている。
- 社会全体での議論が必要。例えば、ホームレス支援に積極的な自治体では、病院と福祉機関が連携し、救急受け入れのガイドラインを作成している。また、欧米の一部の都市では、医療費の公的補助を拡充することで、病院の負担を軽減しつつ、支援を強化している。日本でも、こうした成功事例を参考に、より包括的な支援策を議論すべきだろう。
- 「自己責任論」と「人道的支援」の対立
- ホームレスの状態を「自己責任」とする人もいれば、「社会の責任」と考える人も。
- 解決のための政策提言が求められている。
ホームレスの医療問題を解決するために必要なこと
- 病院・福祉・NPOの連携強化
- 医療機関だけに負担を押し付けない仕組みを。
- NPOと病院が協力し、医療費の支援を強化。
- 行政の支援制度の拡充
- 生活保護の申請手続きを簡素化。
- ホームレスの人が医療にアクセスしやすくする施策を推進。
- 社会の理解を広めるためのアプローチ
- ホームレスの医療問題を社会全体で考える。
- 偏見をなくし、支援の輪を広げることが重要。
この問題は一朝一夕には解決しないが、少しずつでも改善するために、社会全体で取り組む必要がある。例えば、東京都ではホームレス向けの無料医療相談会を定期的に開催し、医療機関と連携して治療を提供する仕組みを整えている。また、海外では「モバイルクリニック」を導入し、医師が直接路上で診察を行うモデルもある。こうした成功事例を参考に、日本でもより積極的な支援策を導入し、行政・病院・NPOが連携することで、誰もが医療を受けられる社会を目指すことが求められる。
読者の皆さんも、できることから始めることが大切だ。例えば、ホームレス支援を行うNPOへの寄付やボランティア活動への参加、社会全体でこの問題を議論するための情報発信など、小さな行動が大きな変化を生む。ホームレスの人々が適切な医療を受けられるようにするためには、社会全体の意識改革も重要だ。
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